今回の事例で獲得した成果

  • 税理士法人に委託していた仕訳作業を内製化し、外注費用で課題だった年間100万円以上の費用削減に成功しました。 税理士法人には、作成した仕訳のレビューだけを依頼しています。
  • 仕訳の判断を「前月までと同じ科目・補助科目・税区分で再現する」ことに絞り、ルール集と過去の仕訳の検索に合わせさせることで、2026年9月分の仕訳作成から会計ソフトへの登録までを通せました。 迷ったときに新しい処理を考え出させず、ルールにないものは質問として上げる形にしています。
  • ルールにない判断は、オーナーの回答をルール集の「判断ログ」に書き足す運用にしました。 9月分の作業を通じて12項目が記録され(2026年10月9日時点)、翌月からは同じ判断を手順として再現させる設計です。翌月以降に実際に再現できるかは、まだ確認していません。
  • 銀行の残高や売上合計など、外部の数字との照合を工程に組み込んだところ、前月分の登録漏れも見つかりました。 明細の取引前残高と会計ソフトの前月末残高を突き合わせた結果、8月分の入金1件が未登録だったことが分かっています。
  • 件数の多い月は、別のエージェントに検証役をさせると、作成役が見落とした誤りが見つかりました。 9月分では、計上漏れと経費の区分の誤りが見つかっています。
  • スキルとしてまとめた後の月締め作業は1時間以内での実施に成功。

取り組んだ課題

アリストルでは、2026年9月に、それまで税理士法人に委託していた経理作業を社内に移し、AIエージェントで行う方式に切り替えました。税理士法人には、作成した仕訳のレビューだけを依頼しています(代表のコメント、週刊AXニュース第5号・2026年10月5日による)。

月次決算では、毎月、銀行の入出金明細、支払い済みの請求書と翌月払いの請求書、法人カードの利用明細、売上管理シート、紙の請求書や通知書のスキャンなどを揃え、クラウド会計ソフト(MFクラウド会計)に仕訳を登録します。処理は入出金の仕訳だけでなく、前払費用・減価償却の毎月の取り崩し、前月末に計上した未払金の支払照合、翌月払いの未払金の計上、売上の計上と前受金の調整、経費精算から連携された仕訳の税区分の見直し、請求書が届いていない取引の概算計上など、多岐にわたります。

これらの多くは毎月同じ判断の繰り返しです。そこで、前月までと同じ判断を漏れなく再現し、数字の照合までを終えた状態で人が確認できるよう、仕訳の作成をエージェントに任せることにしました。最初の月(8月分)はスキルにまとめる前の進め方で処理し、9月分の作業をもとに、手順書・ルール集・スクリプトを1つのスキルとしてまとめています。

実施内容の概要

人とAIの役割

担当 役割
オーナー(代表) 毎月の資料を所定のフォルダに置く。エージェントが挙げた要確認事項に回答し、会計ソフトへの登録を了承する。補助科目の作成など、会計ソフトの画面でしかできない操作を行う
税理士法人(外部) 作成した仕訳をレビューする
ルール集(スキルに同梱) 銀行明細の相手先ごとの仕訳、毎月の定例処理、未払金・売上・前受金の扱い、オーナー判断ログを定義。エージェントは仕訳を作る前に読む
AIエージェント 資料の読み取り(画像だけのPDFの明細の書き起こしを含む)、ルールに沿った仕訳の作成、前月末の未払金の支払照合、要確認事項の整理、了承後の登録と登録後の照合
スクリプト 会計ソフトからの仕訳・試算表の取得(読み取りのみ)、売上管理シートの数値の抽出、過去の仕訳の検索、経費仕訳の修正案の作成、想定月末残高の算出と照合、会計ソフトへの登録、仕訳一覧Excelの作成

利用環境

  • AIエージェント:Claude Code(手順書・ルール集・スクリプトを1つにまとめたスキル)。毎月、手動で起動します。
  • 会計ソフト:MFクラウド会計(API連携で仕訳・試算表を取得し、了承後に登録)
  • 補助:Python のスクリプト(取得・照合・登録・Excel作成)
  • 入力:自社の銀行明細・請求書・カード明細・社内の集計表。経理データを扱うため、APIの認証情報は環境変数で管理し、画面やファイルに出さない取り決めにしています。

変更した工程

人だけで行う場合は、資料を1つずつ開いて読み、科目と税区分を判断して入力し、残高を確かめる、という流れになります。エージェントを使う流れは次のとおりです。

  1. 対象月と資料の確認:揃っている資料と足りない資料を一覧にして報告する。足りないものがあっても、揃っている範囲で進める
  2. 会計ソフトの現状取得と前月末の照合:銀行の前月末残高が、明細の取引前残高と一致するかを確認する
  3. 仕訳の作成:前月の仕訳定義のうち毎月の定例部分だけを引き継ぎ、当月の資料に合わせて書き換える。その月限りの仕訳は引き継がない
  4. 経費仕訳の見直し:経費精算から連携された仕訳の税区分などの修正案を作り、自動で直してよいものと人の判断が要るものを分ける
  5. 検証:銀行の入出金・売上合計・前受金残高が資料と一致するか、想定月末残高を出して照合する
  6. 報告と確認(ここで止まる):仕訳の件数と一致状況、前月末の計上と支払額がずれたもの、要確認事項を報告し、登録の了承を得る
  7. 登録と照合:何が登録されるかの計画を表示して件数を確かめてから登録し、1件ずつ会計ソフトから読み直して照合する
  8. 成果物とルールの更新:仕訳一覧のExcelを作り、オーナーの回答をルール集に書き足す

手順1〜5は自動で進み、手順6で毎回作業が止まります。会計ソフトへの書き込みは、手順7の登録用スクリプトを「実行」の指定付きで動かしたときだけに限っています(依頼の時点でオーナーが登録を了承している場合は、その了承をもって登録に進みます)。要確認事項は「何が起きているか → どう処理したか → 何を決めてほしいか」の順で1件ずつ報告します。

結果と検証条件

項目 内容
対象 2026年9月分の月次決算(入出金、前払費用等、未払金、未払費用、売上、前受金、経費仕訳の見直しなど)。8月分はスキルにまとめる前の進め方で処理
実施時期 2026年10月5日〜9日(9月分。スキルと成果物の作成記録による)
成果物 会計ソフトへの仕訳の登録、仕訳一覧のExcel(仕訳一覧、未払金の照合、経費仕訳の修正、要確認事項など)
検証の方法 明細の書き起こしは、件数・入出金合計・取引後残高が明細のヘッダと一致することを確認。銀行残高・売上合計・前受金残高を資料と照合し、差額は1円でも原因を説明できるまで詰める。登録時は、内容が同じ仕訳が会計ソフトに既にあれば登録せず、似た仕訳は「重複の疑い」として止める
人による確認 オーナーが要確認事項に回答し、登録を了承。登録後の仕訳は税理士法人がレビュー
月締め作業の時間 スキル化後は1時間以内
初期構築(ルール集・スクリプト作成)の工数 計測していません
仕訳の誤り率 計測していません。検証役のエージェントの指摘、オーナーの確認、税理士法人のレビューで修正しています

この結果は当社の取り組みの記録です。同じ方法で、同じ範囲・品質・所要時間が得られることを示すものではありません。

うまくいかなかったこと・適用上の限界

  • ルールにない取引は、エージェントだけでは処理を決められません。 新しい取引先や、初めて出てくる売上の区分などは要確認事項として上がり、オーナーの回答が要ります。
  • 資料が揃う時期が月によって違います。 法人カードの明細の一部は発行が遅れ、届いてから当月末付で追加計上しています。請求書が届いていない定例の取引は前月の実績で概算計上し、翌月に差額を調整する必要があります。
  • 会計ソフトのAPIでできないことがあります。 補助科目の作成や仕訳の削除はAPIで行えないため、画面での操作をオーナーに依頼するか、逆仕訳で対応しています。
  • 自動で直さず、報告に留めている論点があります。 入金が後になる取引先で残高がマイナスになる科目などは、月次では修正仕訳を入れず、原因と仕訳案をまとめて報告するだけにしています。
  • 画像だけのPDFの読み取りには手間がかかります。 銀行の明細は画像から表の部分を切り出して読み、合計がヘッダと一致するかで読み取りの誤りを確かめています。
  • スキルとしての運用はまだ1か月分です。 判断ログに書き足した判断が翌月以降に正しく再現されるかは、確認できていません。

他の企業で検討する際のポイント

  • 新しい処理を考えさせるのではなく、「前月までと同じ判断を再現する」ことを目的にし、科目・税区分のルール集と過去の仕訳を参照させる。
  • ルールにない判断は質問として上げさせ、人の回答をルール集に書き足して、次の月から再現させる。
  • 会計ソフトへの書き込みは1つの実行手順に限定し、その直前で作業を止めて人の了承を取る。
  • 銀行残高・売上合計など外部の数字との照合を工程に組み込み、差額は原因を説明できるまで詰める。
  • 二重登録の防止は、手元の記録だけでなく、会計ソフト側のデータとの突き合わせで行う。
  • 会計ソフトのAPIでできないこと(削除、科目の作成など)を先に確認し、人が画面で行う作業として切り分ける。
  • 作成した仕訳を専門家(税理士など)がレビューする体制を残すかどうかを、内製化の前に決めておく。
  • 経理データを扱うため、利用するAI環境、認証情報の管理、作業フォルダの置き場所を事前に決めておく。